手遅れになる前の熱流束計算


目安は部品の総消費電力/基板表面積=400W/m$^2$

熱流束の上限目安は 300 ~ 400W/m$^2$

図1 熱流束の上限は使用環境や製品によって異なる.基板全体の熱流束が400W/m$^2$を超えると過熱や部品の故障につながる.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.詳細は[VOD] Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】

熱流束を計算する方法

熱流束とは?

熱流束は,基板設計において非常に重要な概念です.熱流束は,基板上の部品が発生する熱の総量を基板の表面積で割ることで求められます.式で表すと次のようになります.

$ \text{熱流束} = \dfrac{\text{総消費電力}}{\text{基板表面積}} $

自然空冷の基板の場合,熱流束の目安は 300 ~ 400W/m$^2$ 程度ですが,これは使用環境や製品によって異なります.基板全体の熱流束がこの範囲を超えると,過熱や部品の故障につながるため,設計段階でこの値を一定以下に保つことが重要です.

熱流束の均一化

基板全体の熱流束が適切な範囲内であっても,基板内の各部の熱流束が均一でなければ,局所的な過熱が発生する可能性があります.回路設計の段階で,各回路ブロックごとの熱流束を計算し,熱源を分散させることで,基板内の熱流束の均一化を図る必要があります.

$ \text{基板内の熱流束} = \dfrac{\text{ブロックごとの消費電力}}{\text{ブロック表面積}} $

熱拡散の重要性

熱流束が大きい部分は,基板上の銅箔によって熱を拡散させることができます.基板に残っている銅箔の割合が大きければ,効率よく熱が拡散し,温度の上昇を抑えることが可能です.

例えば,60 $\times$ 60 mmの基板に1Wの電力を加えた場合,チップ抵抗を8~36個に分散させると,基板の温度は大幅に低下します.さらに4層板にすると,熱拡散効果が増し,温度の低下が期待できます.

目標熱抵抗を設定して効率的な部品熱設計を行う

目標熱抵抗の設定

熱設計において,許容温度,周囲温度,発熱量といった要素を個別に考えるのではなく,それらを統合して「熱抵抗」という目標値を設定することが重要です.目標熱抵抗は次の式で表されます.

$ R_{\theta} = \dfrac{T_{\text{J}} - T_{\text{A}}}{P} $

$T_{\text{J}}$はジャンクション温度,$T_{\text{A}}$は周囲温度,$P$は消費電力を表します.

論理パラメータと物理パラメータの設定

目標熱抵抗を実現するためには,論理パラメータと物理パラメータの設定が必要です.例えば,基板の表面積$S$や熱伝達率$h$(対流+放射)を考慮し,次の条件を満たす必要があります.

$ S \geq \dfrac{P}{h(T_{\text{J}} - T_{\text{A}})} $

$h$は,自然空冷の場合,15W/m$^2$K程度と仮定します.10Wの消費電力を発する部品の場合,$S \geq 0.0133\text{m}^2$という条件が成立します.

設計パラメータを満たす寸法

この設計パラメータを満たすためには,物理的な寸法を適切に選定する必要があります.例えば,部品が立方体の場合,一辺の長さは次のように求められます.

$ L \geq 47.14mm $

これは,40℃の環境下で10Wの熱を発生させた場合に,部品の表面温度が90℃を超えないようにするための条件です.〈ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 1977年 早稲田大学理工学部 機械工学科卒
  • 1977年 沖電気工業に入社.電子交換機やミニコン,パソコン,プリンタ,FDDなどの冷却方式開発や熱設計に従事.その後,電子機器用熱解析ソフトの開発,CAD/CAM/CAEおよび統合PDMの構築などを担務
  • 2007年 サーマル・デザインラボを設立.上流熱設計と熱解析の両輪による「熱問題の撲滅」を目指し,製品の熱設計,熱対策支援,プロセス改革コンサルティング,研修などを手がける.

著書

  1. [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. 高密度実装時代の熱設計教科書,トランジスタ技術2020年8月号,CQ出版社.

参考文献

  1. [Book/PDF]デシベルから始めるプリント基板EMC 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD] Before After! ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/KIT]ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [KIT]ミリ波5G対応アップ:ダウン・コンバータ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [VOD]アナログ・デバイセズの電子回路教室【差動信号とその周辺回路設計技術】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  7. [VOD]アナログ・デバイセズの電子回路教室【A-D/D-Aコンバータの使い方】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  8. [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  9. [VOD]Gbps超 高速伝送基板の設計ノウハウ&評価技術,ZEPエンジニアリング株式会社.